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zoom RSS Life・・小田急線 最終便 渋沢駅下車

<<   作成日時 : 2010/07/08 00:43   >>

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僕は生き、そして死んでいた。

高卒後の進路を巡っての親との諍い、友情の亀裂、失恋・・
色々ありすぎて、いわば川淵に浮かぶ泡のように、日々をただ空しく過ごしていた。

そんな僕が流れに乗った。

その日の夕方、ベッドで寝返った時、書棚から一冊の本が落ちてきた。以前、古本屋で何気なく買った登山ガイド。

と、その開かれたページに目がとまった。ごく平凡な山頂の写真に、何かを見たような気がしたのだ。

僕は、駆り立てられるように家を出て、列車をつぎ、小田急線 新宿発. 最終便に乗り込んだ。
揺れる車内で、本に記された登山道を見つめていた僕の耳に、下車駅のアナウンスが流れた。



----「次は・・渋沢 渋沢」----




・・

totsu totsu totsu

僕は夜の道を歩いていた。

駅を出て半時間はたっただろう。

・・/無(まって)/・・

一つの気配に振り返った。

何もない。
ただ光が、痩せた墨のような電柱の上で揺れていた。
色をなくした朧(おぼろ)な冷たさが、そこに眠っていた。

前に向き直った。
誰も待たない光が並び、闇に飲まれて消えていた。


totsu totsu totsu

盲(めしい)の獣のような 靱(しなやか)さを欠いた歩みの連続・・

連続・・ 

突然、白い炎がなぎはらわれた。
車のヘッドライト。
慣れる間もなく、赤いテールランプと滲(にじ)みあい、オイルの臭いを道にあずけた。


totsu totsu totsu

朽ちた草の乾きが、喉の奥を掻いている。
鼓動がシャツとすれあい、韻を数えている。

僕は歩き続けた。
近づく光 遠ざかる光、どちらも胸の奥の灯心には届かなかった。
地上の埃のような星々が、暗い空の平面にへばりついていた。


totsu totsu totsu

・・  ・・  ・・ 


もはや周囲に光はなかった。
闇が、乾いたざわめきとともに 漆黒のヴェールを広げていた。

足下に小石が転がった。
ねばつく糸が顔を引き、細枝が前をまさぐる両手に噛みついた。

僕は山塊の伸ばす舌に乗っていた。


totsu totsu totsu  

冷気が荒く喉を研(と)いでいる。
胸の奥、鼓動に包まれた灯心に、炎が立った。


・・//

闇に何かが切りこんだ。
鋭い鳴き声が左に流れた。

鹿だった


totsu totsu totsu

・・//


わかっている。
後ろに何かが近づいていた。

足音を立てず、息も殺している。
実体を持たぬ闇の影・・
そんな感じだった。


僕はとまった。
         それもとまった。


totsu totsu totsu

・・// ・・//

僕は歩き始めた。
           それも進み始めた。


胸の炎が叫んだ。
          ー後ろを見よ。近づくものの息を感じよ!ー

瞳が叫んだ。
          ー振り返るな。ないものに命を吹き込むなー


totsu totsu totsu

・・// ・・//


「闇の胎(はら)に 出口はないのか」

「導きの光は 我に気づいていないのか」

「時の振り子に 安堵の鐘はついていないのか」

            叫びが、迷宮を彷徨(さまよ)った。



totsu totsu totsu

・・// ・・//


炎を保ち続ける鼓動 
鞴(ふいご)のように冷気を引き込む喉のうねり
身体は機械仕掛けとなっていた。

二つの脈動
それだけが、僕の存在を証していた。


totsu totsu totsu

・・// ・・//


totsu totsu totsu totsu・・・ 


紺色の広がりが目の前にあった。
          乾いたざわめきが、下方で波を打っている。
          迷宮に彷徨う叫びが遠のいていく。


totsu totsu

そこは山の頂上だった。


四・・

三・・

二・・ 
        
一・・   

等級が減じ、星が徐々に消えていく。



冷たい鏝(こて)が、ジーンズに平らにあてられた。
腰かけた大岩の上で、僕は長い息を吐いた。


・・


瞳の端に何かが映った。

斜面を登り来るもの
       闇の影・・

            それが音もなく近づいてきた。



・・//


・・// ・・//


喉を研ぐ冷気が凍てつき、鼓動のなかの炎が消えた。


・・// ・・// ・・//





気がつくと、目の前に少年が立っていた。
僕の手は、彼にさしだされていた。

『来たんだね』
舌の動きのかすかな痕跡が、僕が話したことを蘇らせた。

「やっと追いついたよ」
 少年は言った。

彼・・
   いつも、僕の後にいたあの少年だった。


これまで、
その突きつけるだろう物が怖くて、顔を見ることができなかった。

「ほら」
紺色の暗がりで無邪気に笑う少年が、僕の手を握った。
花びらに似て柔らかく、懐かしい手だった。

僕が手を開くと、ぐっと重みのかかる何かを入れて、両手でおおった。
彼はうなずき、どこかに消えた。


・・//


背後に一つ、歩みがあった。
振り返ると、老人が立っていた。

「いつからそこに」
「ずっと以前から」

幼い頃に耳の襞に刻まれて以来、いつも傍らにあった声だった。

少年と同じく、これまで、耳を傾けることはできなかった。



「よい頃合いだ。種を蒔(ま)け」
僕の胸に手を当てた老人が、言葉を投げた。

その声は僕を包み、身体の内に溶けていった。


手の中で、少年から渡された物が光り始めていた。
それは硬い殻におおわれた大きな種だった。


『いいのか、虚ろという甘美な淀みを 死としても・・』

『いいのか、剣(つるぎ)流れる河に 生を託しても』 


否・・

否・・


良し! 疑念の囁きを打ち払い、僕は渾身の力を込め、種を宙に押し上げた。


向かい山の稜線に赤いにじみが生まれていた。
陽が昇りはじめた。

朱色の光の波が大地に染みていく。


宙に放たれた種が、風を切って躍り上がった。
落下の弧を描く時、それは黄金の光を四方に放射した。種はその内に宿したものを解き放ったのだ。

カツッ

わかっている。すでに老人は消えていた。
その立ち位置に落下した黒い石が 二つに割れていた。


ああ・・

それは見覚えのある種だった。


無垢な幼年時代に、僕が作った物。
庭の花壇の縁石を引き抜いては、ペンキを塗り、山好きの祖父にあげていた。
かれは、蒔くべく時を待つ種として、ここにその一つを置いてくれていたのだ。



澄んだ冷気が、痛いほどに喉に流れ込んできていた。
鼓動が、ヴェールを払った炎に油を注いでいる。

「だれでも、いや、なんでもいい。・・・会いたい!」


totsu・・

 totsu・・

  totsu・・
      totsu・・                       

    totsu・・

  totsu ・・ 

totsu ・・
     僕は山を駆け下りた。

              totsu  totsu   totsu



街は目覚めていた。

家々の壁は白く輝き、軒先の花が鮮やかにゆれている。

白 灰 黒 銀・・合間にはさんだ多色の織り込み・・道はいったいいくつの色を持つのか。

人々は闊歩し、車はエンジンを唸らせている 

街は色に、音に満ちていた。
あの種が放った輝きを、それぞれに宿していた。

昨日まではなく、ずっと以前からあった街でもあった。



totsu totsu totsu


僕は前に進んだ。

『 またいずこ。 輝きの種を蒔きたくなったら 』
どこからか声が聞こえた。


totsu totsu totsu


改札を抜け、僕は家路への列車に飛び乗った。















ひと月が過ぎた。

親との諍いは相変わらず続いている。

高三の冬だというのに、受験準備をするわけでもなく、就職の予定があるわけでもない。それにファーストフード店でバイトを始めるなど・・正気の沙汰ではないらしい。
(それでも、履歴書に同意の印鑑を押してくれた所をみると、あちらなりに“明らめ”があったのかもしれない)


バイトを始めた理由はよくわからない。あの深夜の登山で、胸の奥にある何かのスイッチが入ってしまったのだ。


夕方、自転車をかっ飛ばして、駅前にある店に行く。服を着替えて、客と向き合う嵐のカウンターへ・・注文受けにレジ打ち、品出し・・クラクラする間もないほどに忙しい。


なぜか、別れた彼女が 予備校の帰りに寄ってくれるようになった。が、話をする暇もなく、その真意は分からない。




僕は思う。

一度、輝きの種をまいた者は、もはや淵に留まることはできないだろうということを。


でしょう?
いつも一緒にいることになった君・・・そして必要になる時に呼んでくれるだろうかの人。


・・//

・・//                           










                                              了



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