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zoom RSS 人魚と人間の混血児カイトの冒険物語

<<   作成日時 : 2009/08/12 05:55   >>

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童話『カイト、海へ』


1.迎えに来たヘリコプター


ここは日本列島の南西の端に、ぽつぽつと浮かぶ島の一つ、緑島。

その名の通り、島の大部分をしめる森には、一年中、濃い緑の葉が茂っています。
ふと足を止めれば、普通の図鑑では、お目にかかれないような 昆虫に出くわすこともしばしばです。

今は秋の終わりの十一月、本州では、コートを着込んでいる人もいるといいますが、島の住民の多くは、昼間といえば、いまだに半袖で過ごしていました。

そんな島の、ある夕暮れ時のこと・・

バッ バッ バッ バッ ・・ ・・
低い轟きが、赤がね色の空を震わせました。

夜を過ごそうと、木々の茂みにとまっていた鳥たちが、驚いたように飛び立ちました。
ヘリコプターです。役場のある本島の方からやってきた白い機体は、入り江の奥まで進み、ゆっくりと降下していきました。

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「あれ」
本島の小学校から、渡し船で帰ってきたばかりの五年生のカイトは、目を見張りました。ヘリコプターが降りていったのは、父さんの診療所のあたりだったのです。

もしや、患者さんのことで、急用ができたのかもしれません。それか、めずらしいお客さんが来たのか・・。

「とにかく、急がなくちゃ」
肩かけバッグを小脇に抱えたカイトは、桟橋を渡り、軒先に 魚やイカの干してある家々の前を走っていきました。

「カイト、そんなに急いでどないした」
いつも診療所に、パンと牛乳を届けてくれる高木ばあちゃんとすれちがいました。
「診療所にヘリコプターが来たんだ」
「先生様の所に、はりこぶた・・そりゃ、よいこって」
高木ばあちゃんは、薄茶色の長い髪の少年を見送りながら、ぼそぼそとつぶやきました。

「ふう、やっぱり」
カイトが、息を切らしながら診療所に来てみれば、横の空き地に、ヘリコプターが降りていました。
ローターの回転は弱まっているようですが、目も開けられないほどの強い風が吹きつけてきます。白い機体には、赤い十字の病院のマークが描かれています。

白衣をひらめかせた父さんが、朱色の服を着た操縦士と話をしています。
腕を組み、何やら難しそうな顔をしていますが、『了解!』とばかりに手をあげ、玄関に、小走りにやってきました。

「カイト、いいところに帰ってきた。これから父さん、隣の湯吹島まで行かなくてはならなくなった」

隣とはいえ、湯吹島までは、船で一時間もかかります。島民はほとんどお年寄りで、そこから小学校に通っている子はいません。

「どうしたの、病気の人?」
「そうなんだ。島の人が、みな病気になってしまったらしい。あそこには診療所はないだろ。だから、父さんが行かないといけないんだ」

「ぼくは? 留守番」
「残念だけど、これは仕事だからな。それに、おまえのような子どもが行ったら、病気が移ってしまうかもしれない」

診療所に入った父さんは、あたふたと準備を始めました。
往診用のスーツケースに、薬やら注射器やらをいっぱい詰め込んでいます。
「じゃあ、いってくるよ。なに、明日の夕方にはもどれると思う」
ケースのふたを閉めて振り返りました。

「九州の大きな病院から、応援の先生達が来ることになってるから、父さんはそれまでの間つなぎってわけさ。冷蔵庫に朝のシチューの残りがあるから、夕飯はそれを食べてな」

「それはいいんだけど」
カイトは何やら胸騒ぎがしました。

・・湯吹島の島民は、五十人たらず。とはいえ、皆が病気になってしまうなんて。父さんは大丈夫なんだろうか・・

「心配するなよ。かりにも僕は医者だからな。寂しかったら、母さんに会いにいってもいいぞ」
そう耳元で囁き、父さんは待機しているヘリコプターに走っていきました。

「いってらっしゃーい」
大きく手を振るさき、白い機体は、まぶしく輝く夕日のなかに消えていきました。

「けど、会いにいってもいいなんて・・母さんは、呼んでも来てくれないことばかりなのに」
カイトは空を見上げたまま、小さくつぶやきました。




2.夜に来た客


静かな島の夜がおとずれました。

カイトは、診療所の二階にある自分の部屋で、本を読んでいました。でも、文字ばかりが浮かんで見えるようで、ちっとも物語の世界に入っていけません。
顔をあげて、窓の外を見ました。

通りにある家々は、早々と明かりを消しています。
夕方には人声もしましたが、今は全く聞こえてきません。黄色い満月が東の空に顔を出し、打ち寄せる波のさざめきだけが、どこからともなく聞こえてきます。

「なんだかなあ」
壁の時計は、八時を過ぎていました。いつもなら、仕事を終えた父さんと、晩ご飯を食べている時間です。
お腹が減ったわけではないけれど、他にすることもなく、食事にすることにしました。階段を降り、診察室の奧の台所の棚を、ごそごそと探しました。

「あったあった。父さんは、シチューにしろって言っていたけれど、今夜は特別だ」

五つばかり出てきたインスタント食品の箱の一つをつかんで、にやりと笑いました。
いつも食べたがっていたのですが、
「だめだめ、これは台風が来た時の備えなんだ」
と止められていたのです。

一つのパッケージを破って、電子レンジに入れました。

ピッ!
見るまにも、容器の中のチーズが溶けていきます。
・・ぐつぐつぐつ・・ピッピッピー、熱々のグラタンができあがりました。

さっそく、テーブルについて食べ始めました。
「これ、すごくおいしい」
ご機嫌に言いました。
でも、聞いてくれる人がいるわけでもなく、言葉は空しく流れていきました。

「父さん、なに食べたんだろう」
寂しさを紛らすようにぽつりと言い、とろとろのチーズがからんだマカロニに、フーフーと息をかけました。

 
ちょうど流しでフォークを洗い終わった時でした。
コツコツ コツコツ
診療所のドアが叩かれました。

『こんな時間に患者さん?でも、チャイムを鳴らさないなんて』

島に悪い人などいないことは、わかっていました。でも、用心にこしたことはありません。そうっと、窓のカーテンの隙間からのぞきました。
ポーチには誰もいませんでした。

『空耳だったのかな』
首をかしげた横で、また、
コツコツ コツコツ

まちがいありません。誰かがいるのです。
『いったい、だれ?』
今度は、じっと目を凝らしました。暗がりに目が慣れたところで、やっとわかりました。
ドアの向こうには、ノブの高さほどの白く淡い光の塊があったのです。

『なにかの精霊・・いや、宿り先のものはここにはないから、あれは妖精だ』

そんなものが訪ねてくるなんて、普通では考えられません。もちろん、驚きましたが、慌てることはありませんでした。
この世界には、人間の知らないことが山ほどあるのです。カイトは誰よりも、そのことを知っていました。

「ちょっと、待ってて下さい」
ひと声かけたカイトは、自分の部屋に駆け上がり、机の引き出しから、大切にしまってあったペンダントを取り出しました。

銀色のチェーンに化石のような灰色の二枚貝がついたペンダント・・それは、まだ会ったことのないおじいさんが、カイトの誕生の祝いにくれたものでした。

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地上では、決して開けてはいけないと言われています。不思議な力を秘めたもので、身に着けると、人間の目には見えないものが見え、話もできるようになるのです。
父さんも、同じようなものを持っていますが、それは、せいぜい 海の動物たちの言葉がわかるぐらいの力しかもっていません。

さっそくペンダントを首にかけ、玄関に戻りました。
 
窓から、再びのぞけば、
『やっぱり』

ポーチには、小さな女の子のような妖精が立っていました。
ちょうど幼稚園生ぐらいの背たけで、銀色の長い髪の下に白いスモックを着ています。
まわりには、先ほど見えた淡い光が、ぼうーと滲み出ています。肩越しに、背中からのびた羽根が見えています。

「こんな夜にどうしたの?」
ドアを開けて、優しく聞きました。
「わたし、病気になったみたいなんです」
力のない返事でした。

「今、お医者さんはいないけど、もしかしたら、役に立てることがあるかもしれない。それでもいい?」
「もちろんです」
カイトは、ほっと顔をほころばせた妖精を、診察室に通しました。




3.妖精の言葉


妖精を、患者さん用の丸イスに座らせたカイトは、父さんが使っているイスに腰かけました。

「えーと、君は人間じゃないよね。いったい、何者なんだい?」
「わたし、光の妖精なんです」
「なるほど。それで体が光っているんだね」
話し相手がいるというのは、本当によいことです。さっきまでの寂しさは、どこかに消えていました。

「でもよかったです。人間には、姿が見えないと思って、半分あきらめていたんだもの」
透き通るような青い目に見つめられたカイトは、ペンダントをつつきながら、そっと微笑みました。

「うん、まあちょっとね。それで、病気になったといっていたけど、どこか、具合が悪いの?」
「ええ、わたし、遠くまで飛べなくなってしまったんです。いつも太陽の光を追いかけながら遊んでいるんだけど、この近くの島で、急に力が出なくなってしまって」
「遠くまで飛べなくなったって。羽根が原因かな」
カイトは、妖精のイスをくるりと回しました。

カゲロウのように薄い銀色の羽根が、小さく震えていました。じっと目を凝らして見ましたが、どこにも傷はありませんでした。

「羽根には、おかしなところはないみたい。何かしていて、そうなったの?」
「・・そう、わたし、とても珍しい花を見つけたんです。金色に輝いて、すごくよい香りでした。嬉しくって、その周りを飛び回っていたんです。そしたら急にふらふらしてきて。
それで、せめて太陽の昇ってくる方に行こうとして、やっとのことで、ここまで来たんです」

「原因は、その花だね。問題は、どうやったら力を取り戻せるかだ」
カイトは首をひねりながらも、とりあえず、父さんがいつもしていることを、やってみることにしました。

「はい、まずは口を大きく開けて」
机の上にあった懐中電灯で、妖精の口の中を照らそうとしました。もしや喉の奥が腫れているかもしれません。それなら、うがい用の消毒液があります。

「はー、ひほひひいー」   
かぽりと電灯をくわえこんでしまった妖精が、隙間から息を漏らしました。
「えっ、何?」
カイトが聞き返しているうちに、懐中電灯は電池がなくなって、消えてしまいました。

「それ、すごく気持ちよかったです」
「ちょっと待ってよ」
 
机の引き出しをのぞくと、奥の方に新しい電池がありました。さっそく入れ替えてつけると、妖精は、また、大きく口をはってくわえこみました。
「使い方は変だけど・・どう、気持ちいい?」
妖精はにこにことうなずいています。

「あ、まただ」
十秒とたたないうちに、光は弱くなり、消えてしまいました。

「少しだけど、力がもどってきたようです」
妖精の体は、先ほどよりも明るく光り始めていました。
カイトは目を開きました。

「君は、光を飲み込んで力を回復するんだ。でも、いつも、そうしているのではないの?」
「いいえ、いつもは光に当たっているだけです。口の中に入れるなんて知らなかった。自分のことなのに」
妖精は肩をすぼめて笑いました。

カイトは、さらに机の引き出しの奥や、ロッカーの中を探しましたが、電池は出てきませんでした。
「だめだ。もうないや」
と、振り返ったところで、思わず吹き出しました。

なんと妖精は、机の上に乗って、デスクスタンドの電球を口にくわえていたのです。その体は、まぶしいほどに光り始めています。

「行儀は悪いけど、そりゃ、まったくいい方法だよ。思いつかなかった」
言いながら自分の額を、パシパシと叩きました。

それから間もなく、妖精はハタハタと羽ばたき始めました。電球から口をはずし、フワリと飛び上がりました。

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「もう充分です。これで遠くまで飛べます。あなたはもしや、本当のお医者さんなのでは?」
「はは、そんなことないよ。それでどうするの。いま日本は夜だけど、太陽が出ている外国まで飛んでいくのかい?」
「ええ、急がなければ。朝になる前に、兄さんたちに知らせないと。あの湯吹島と呼ばれるところに行ってはだめって」

「えっ、君が飛んできた島って」
カイトの頭の中で、バラバラだったパズルが、かちりと合ったようでした。

島中の人が病気になったという湯吹島。そこには、妖精から飛ぶ力を奪う金色の花が咲いていた・・
これまで、そんな珍しい花があるなんて聞いたこともありません。人々が病気になったのも、その花のせいに違いありません。

『ああ、父さん!』
いくら、医者としての腕は確かでも、そんな得体の知れない花が引き起こした病気に、何ができるでしょう。父さんまで、病気になってしまうに違いません。

胸が張り裂けんばかりに苦しくなってきました。
『あせっちゃだめだ。落ち着いて、落ち着いて』
いったん深呼吸してから聞きました

「島の人たちは、どんな様子だった?」
「元気に歩いている人はいませんでした。皆、家の中で苦しそうな息をして寝ていました」
「元気な人、本当に誰もいなかった?」
祈るような気持ちで聞きました。

「そういえば、二人だけ。あちこちの家を歩いてまわっていました」
「その二人の服装は?」 
「白いヒラヒラした服と、オレンジ色のぴったりした服です」
「父さんと、ヘリコプターの操縦士さんだ。でも、二人とも、もう病気にかかってしまったのでは」
「それは大丈夫だと思います。日が沈みかけたら、あの花は閉じて、香りもなくなっていましたから」
「きっと、タンポポみたいに花が閉じたんだね。でも、明日の朝になれば、また花は開いてしまう」

ほっとしたのも束の間でした。カイトはうーんと頭を抱えました。

「わたし、もう行かなくては。光のご馳走、本当にありがとうございました」
光の妖精が、申しわけなさそうに頭を下げました。
「ううん、気にしないで。こちらこそ、お礼を言わなくては。君が来てくれたおかげで、重大なことがわかったんだ」

顔をあげたカイトは、まぶしさに目を細めながら、妖精を玄関まで送っていきました。

「わたしには人間の病気を治す力はありません。でも、できることがあったら必ずします。それでは」
一度、フラッシュライトのように輝いた妖精は、夜空に高く羽ばたき、流れ星のようにきらめきながら、東の方に飛んでいきました。

「光の妖精は、光を飲み込んだら元気になった。けど、人間はそうはいかない。朝になれば、また金色の花が咲いて、父さんも操縦士さんも病気にかかってしまう。どうしたらいい?」
カイトは、診察室のイスをぐるぐる回しながら考えました。
でも、よい方法は浮かんできませんでした。第一、金色の花なんて、見たことも聞いたこともありません。

もはや、頼るところは、一つしかありませんでした。

「母さんに、会いにいこう」
カイトは決心しました。



4.八海坊


夜の浜辺は、風がささやくように、サラサラと鳴っていました。
打ち寄せる波の泡が、月の光を乗せて、前に後ろに伸びています。

首にかけたペンダントのせいで、不気味な夜の精霊たちの姿が、あちらの波間、こちらの岩陰に見えました。
でも、家に置いてくるわけにはいきません。母さんと話をするには、ペンダントが必要なのです。

砂にくつをうずめながら、カイトは黙々と歩き続けました。
砂浜が終わったところで、ごつごつした岩を登って降り、やがて、波が砕ける磯辺にたどり着きました。後ろは、黒い崖がそそり立っています。

辺りを見回して、誰もいないのを確かめてから、海に向かって叫びました。

「母さん、カイトだよ。出てきて!」

声を飲み込むように、黒くうねる波が、大きく跳ね上がりました。ものの一分と経たないうちに、海面が小山のように盛り上がり、ザパーンと二つに割れました。

プシューー
潮が高く吹き上げられました。

クジラです。大きさは、優に三十メートルを超えているでしょう。てらてらと光る青黒い体全体に、白い斑点が浮き上がっています。それは、クジラの中でも、一番大きなシロナガスクジラでした。

「坊ちゃま、お久しぶりです」
波しぶきを立てながら、クジラが話しました。

カイトは懐かしそうに、その大きな口の先をなでました。
「やあ、八海坊。元気そうだね。さっそくなんだけど、僕、母さんに相談しなければならないことがあるんだ」
「残念ですが、姫様は、南の果てで開かれている人魚会議に出席されています」

「ああ、やっぱり。母さんは、いつも仕事で来られないんだ」
カイトはがっくりと肩を落としました。

そう、カイトの母さんは、海に住む人魚なのです。

もう何年も前のこと、父さんが、この島の診療所にやってきたすぐの頃でした。
嵐の夜の翌日に、浜辺に打ち上げられている人魚を発見しました。

父さんは、天地がひっくり返るほどに驚きました。
まさか、本当に人魚がいるなど、思ってもいなかったのです。それに、その人魚は、それまでに出会ったどの女の人よりもきれいでした。
父さんは、怪我をしている人魚の尾に添え木を当て、人気のない磯辺に運びました。島の人には内緒で、毎朝、暗いうちに出かけて手当てをしました。

人魚が、自由に泳げるくらいに回復した時、二人は愛し合うようになっていました。
そしてカイトが生まれたのです。

父さんに似たのか、カイトには、人魚の尾は生えていませんでした。それで人間として、陸に住むことになったのです。

・・びっくりしたのは、それだけじゃないぞ。だってな、母さんはただの人魚ではなくて、人魚の国の姫様だったんだからな・・
父さんは、酒を飲んで酔っぱらうと、いつも話してくれます。
・・それに結婚式は恐ろしかった。父さんと母さんが、八海坊の背中に乗ってな。それこそ、何千人という人魚に取り囲まれて、海中のクジラやシャチ、イルカが大波を立てながら踊ったんだ・・

「坊ちゃま、仕方ありません」
八海坊は平らに突き出している大岩に頭を乗せました。
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「姫様は、世界中の海を渡って、お仕事をなさっておいでです。相談事なら、わしが 代わりにお聞きします」
「うん、そうだね」

カイトは溜息をつきながら、岩に腰かけ、光の妖精から聞いた話を伝えました。

「光の妖精の飛ぶ力を奪う金色の花ですとな・・」
クジラが低い声でうなりました。
「・・ブハー、ずっと昔に噂を聞いたことがありますぞ。確かそれは、なんとも言えぬよい香りで、生きるものを 全て病気にしてしまう花だとか。
だが、実際は誰もよく知らない。なんといっても、島が噴火するほんの数日間だけ、花開くものらしいですから」

「なんだって!」
驚いて首を上げたカイトは、生え伸びた松の葉にごっそりと頭を刺しました。でも、痛がっている場合ではありません。

確かに湯吹島では、あちこちで、シューシューと湯気が吹き出ています。地下の浅い所にマグマがあるからだと、父さんが言っていました。でも、島が噴火してしまうなんて。

「八海坊、父さんは今、そこにいるんだ」
「旦那様が!そいつはえらいことです」
クジラは頭をすべらせ、海中に体を戻しました。
「しばらくお待ち下さい」
そのまま尾ビレで波を叩くと、海に潜っていきました。

ピシャーン、ザポーン・・ ・・

岩に砕ける波が、幾分高くなってきました。ずいぶん時間が経ったようです。
何もすることもできず、カイトはただイライラしながら、黒く踊る波を見つめていました。

やがて再び、八海坊が顔を出しました。大きな口には、珊瑚の塊をくわえています。頭の先には、引っ掻いたような傷がついています。

「遅いよ、どこに行ってたんだよ」
「坊ちゃま、海の底に、こいつを取りに行っていたのです」
八海坊は、岩に珊瑚を置きながら話しました。

「それは、人魚の方々が、強い毒に当たった時に飲まれる黒珊瑚です。金色の花が引き起こした病にも、少しは効くと思います。
仲間のクジラたちには、島の噴火のことを知らせました。すぐにも、南の果てにおられる 姫さまのお耳にも届くはずです。とりあえずわしは、その珊瑚をもって、旦那様の元に参ります」

「ありがとう」
カイトはイライラしていたことを恥ずかしく思いました。八海坊は懸命に、自分や父さんのために働いてくれているのです。

「八海坊、お願いがあるんだ。どうか僕を、湯吹島まで運んでいってほしい」
一抱えもある珊瑚を持ちあげながら、丁寧にお願いしました。
「なんと大それたことを。
ですが、お望みの通りにいたしましょう。危険はあるとは申せ、親子の絆をたち切るものは、どこにもございませぬ。その前に、一応のこととはいえ、その珊瑚を削ってお飲み下さい」

カイトは珊瑚の端を、岩に擦りつけました。そして少しできた粉をペロリとなめました。
「ううっ にが。でも、効きそう」
顔をしかめながらも、元気な声でいうと、広い背中に乗り移りました。

「それじゃ、頼んだよ」
「承知いたしました」
八海坊はぐるりと向きを変え、黒い海原を突き進み始めました。



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