おはなしポケット =☆

アクセスカウンタ

zoom RSS 晩年のドラキュラの物語

<<   作成日時 : 2009/07/15 07:47   >>

ブログ気持玉 0 / トラックバック 1 / コメント 0

画像




『太陽の薪』

※主人公のドラキュラは、ストーカー(19C)の原作から、時代を経て一般化されたイメージとして登場させています。ご了承下さい。

<起の章>

カタタタタ カタタタタ・・ ・・
薄暗い森の道を、一台の馬車がはしっている。
汗がにじむ夏の季節であるというのに、御者の老人は、厚手の燕尾服を着こんでいる。
自動車の行きかう現代に、古めかしい衣装の御者と馬車なんて・・いぶかしむ人もあるかもしれない。

だが、なかをのぞけば、なるほどと頷けるはず。
灰色の狼の毛皮をはった長椅子には、黒い棺桶がおかれている。蓋に刻まれているのは神聖なる十字の印ではなく、翼を広げた蝙蝠の形。

そう、なかにいるのは、人の血を吸う闇の申し子。
星巡る年月の間に、あまたに名を変えながらも、知る人の呼ぶ名はひとつ。

・・ドラキュラ・・
馬車を操っているのは、忠実な召使い。

カタタタタ カタタタタ・・ ・・
馬車は進んだ、高いビルの立ち並ぶ都会にむかって。

求めているのは、町に溢れる人間の血。しかし怖れることはない。ドラキュラは、生きている人間を襲うことをやめている。
お目当ては、都会の血液センターにある期限切れ近くの血液パック。
血液センターは、田舎の町にもあったが、交通が発達し、あまり必要ではないと取り壊されることになった。それで、ドラキュラは住みなれた屋敷を離れることを決めたのだ。

カタタタタ・・・
馬車は都会の町に到着した。

「なんともめずらしい」
「お祭りでもあるのかい」
人々は足をとめ、目を見はった。

優雅にはしる馬車のうしろには、長い車の列ができ、クラクションがやかましく鳴っている。
でも、召使いは気にかけなかった。マンションを見つけては、馬車を降り、管理人に引っ越しの話をもちかけた。

けれど、
「だめだめ」「いくらお金をつまれても」
首が縦に振られることはなかった。車のならんだ駐車場に、馬車など置けるはずがなかったのだ。

「御者の仕事は、先祖代々から引き継がれたもの。馬車を捨てるわけにはいかない」
途方にくれた召使いは、町の中央にある広い公園に馬車をつけた。

気分なおしと、噴水の水で顔を洗っているときに、肩をたたかれた。
「美しい馬車だ。よかったら、うちで客を乗せてはくれないだろうか」
声をかけてきたのは、公園のなかにある動物園の園長だった。話にのれば、小さな家も貸してくれるとのこと。
他にどうしようもなかったので、召使いは「こちらこそ、お願いしたい」と頭を下げた。

「しかし、旦那様はよしとおっしゃるだろうか」
小さな家に棺桶を運びながら、召使いはつぶやいた。それに応えるように、動物の鳴き声が近くに聞こえた。


日は沈み、夜がやってきた。
だが、さすがに都会だった。暗闇に包まれることはなく、町の明かりが、窓のむこうに輝きはじめた。

ガタリ、棺桶の蓋が開いた。
出てきたのは、目を見張るほどに美しい若者。彼こそがドラキュラだ。千年余りも生きているのに、歳をとった様子はまったくない。

「爺、ここが新しい住まいか」
ドラキュラは、青く光る目で、狭い室内を見まわした。
「はい、こぢんまりとした家ですが、なにせ、血液センターの近くにございまして」
「時おりきこえる、覚えのない獣の声はなんだろう」
「それが、実は・・」
秘密にしておけることではなかった。召使いはしどろもどろに説明した。

「いたしかたない。時の流れには逆らえぬもの」
ドラキュラは怒ることもなく、すんなり頷いた。

「では、さっそく行って参る」
ほっと胸を撫で下ろしている召使いのよこ、窓を開けたドラキュラは、大蝙蝠に変身し、都会の空に羽ばたいた。

「おかしい。夜になったというに、まだ人間は働いておる」
すぐにも見つけだした血液センターの隣のビルの屋上で、ドラキュラは忍びこむ時を待っていた。
けれど、いつまで待っても、電灯は煌々と点いたまま。痺れを切らしたドラキュラは、地面に降り立ってのりこんだ。

「真夜中であるのに、昼であるような人々の働きぶり。何かあったのか?」
入ってすぐ、受付に座る女にきいた。

「何もございません。こちらは一日中、どの係も開いております。もちろん献血も受けつけております」
ドラキュラに見つめられた女は、全ての女性と同じ、とろりと酒に酔ったような目つきになって答えた。

「都会とは、夜を忘れた世界なのか」
外に出たドラキュラは、溜息をつきながら羽ばたいた。そのまま家に帰り、寝ずに待っていた召使いに声もかけず、棺桶に身を置いた。



<承の章>

その日の日没過ぎ、ドラキュラは棺桶から出ることもなく起きていた。
「このまま血を口にしなければ、干上がって動けなくなる。とはいえ、何処に行けばよいのだ」
暗闇でつぶやいているところに、ノックの音がきこえた。
返事がないところをみると、召使いは外に出ているらしい。
仕方なく起き出して、ドアをあければ、美しい娘がたっていた。

「ようこそ、お嬢さん」
生き血を吸わないことには慣れていたはず。なのに、若い娘を前にしたドラキュラの胸は高まった。
不思議なことに、ドラキュラに見つめられても、娘の目つきはしっかりしたままだった。

「御者さんはいませんか」
「外に出ているようだが、何か用か?」
「動物園の獣医をしている者です。御者さんに、馬のことで相談したいといわれたので、お伺いしたのですが」
「では、そなたが来てくれたことを伝えておこう」

「爺め、よけいな気を遣いおって」
娘の後姿を見送りながらドラキュラは苦笑いした。
ずっと以前、血液センターができる前まで、召使いは、娘たちを屋敷に誘ってくれていた。おそらく、今朝の無愛想な様子をみて、血液センターに忍び込めなかったことを知ったのだろう。

「おや」
ドラキュラは首をひねった。
先ほどの娘が、まだ近くにいるような気がしたのだ。あちこちに目をむければ、腹の膨れた蚊が一匹ふらついていた。パチリと叩いて、手にはじけた血をなめた。

「なるほど」
蚊はあの娘の血を吸っていた。だから、近くにいるような気がしたのだ。

「だが、これは・・」
改めて舌をまわしたドラキュラは驚いた。
娘の血の味は、かつて愛した女性のものを、かすかに含んでいたのだ。

ドラキュラの正体を知り、姿を隠してしまった女性・・
再び会った時には、重い病にかかっていた。嘆いた彼は、女性の首に噛みついて、永遠の命を与えた。
だが彼女は、人間でなくなったことに耐えきれず、陽の光に身を投げて、灰となった。

このことから、ドラキュラは人の生き血を吸うことに迷うようになっていた。そして時代は流れ、人が、血液を保管することを覚えると同時に、すっぱりとやめたのだ。

悲しみの思い出に胸を痛めながら、ドラキュラは、はたと気がついた。

・・わしが愛したあの娘は、知らぬところでわしの子どもを生んでいた。
わしに会わせなかったのは、その子どもが人間だったから。おそらく、先のあの娘は、その遠い子孫にちがいない。だからに、わしを前にしても平然としていたのだ・・

娘が帰ったのを見計らったように、召使いがドアを開けて入ってきた。
「気遣いはありがたいが、わしはもはや、生き血は吸わぬと決めている」
ドラキュラは年老いた召使いに優しくいった。

「そうかとも思っておりました。では、これはいかがでしょう」
恭しく頭を下げた召使いは、燕尾服のポケットから小瓶を取り出した。中には腹に血を溜た小さな虫がパチパチと跳ねている。

「お口の潤し程度にはなるかと存じます」
忠実な召使いのすすめるもの、ドラキュラは迷うことなく、口のなかに虫たちを注いだ。

これまで味わったことのない妙な血の味が舌の上ではじけている。人間の血を飲んだ時にもまして、活力に満ちてくる。

「これはいかなる虫だ。これが吸ったのは何の血だ?」
問いかけたが、召使いは答えなかった。
いやいや、答えられなかったのだ。虫は、血を吸ったノミ。それに人間のものならまだしも、その血は、動物園の獣たちのものだったのだから。

「まあ、よいわ。たとえ少量でも滋養に満ちたもの。礼をいう」
「さて、いかがいたします。この場に落ち着かれますか」
「今の世、住まいを代えても同じであろう」
「おっしゃるとおり。ではまた、今の虫を集めておきましょう」
主人の口に合うものを見つけることができた召使いは、さも嬉しそうに頭を下げた。



<転の章>

ドラキュラは動物園の片隅にある家に住みついた。
念のために、数回ほど、血液センターにいってみた。だがやはり、明かりは消えることはなく、血液が保管されている奧の部屋に忍びこむ隙もなかった。
ドラキュラは日々、召使いが集めてくれたノミを噛みしめた。

屋敷での優雅な生活とは大違いだった。
だが、彼は喜びを感じはじめていた。時折、あの娘が家を訪ねてくれたからだ。
この場を離れなかったのは、そのことを期待していたからなのかもしれない。

彼は、娘の前では、召使いの孫ということになっていた。
「おじいさんに話をするときには、尊敬の気持ちを込めなければだめよ。御者さんだって、自分の孫にぺこぺこするのはおかしいわ」
娘はそういっては、よくドラキュラと召使いを睨みつけた。二人はこっそり顔を見合わせて笑っていた。

新しい生活に慣れたころには、ドラキュラは夜の動物園を、娘と散歩するようになっていた。
動物たちは、二人を歓迎するように檻の向こうに静かに座った。
ドラキュラが「自由にふるまえよ」と声をかけると、盛んに愛嬌を振りまき、また 昼間に出せなかった吠え声を轟かせた。

「あなたって不思議。動物たちと話ができるみたい」
「それほどのことではない」
目を丸くする娘に、ドラキュラはあっさりと答えた。
彼にとって、動物と心を交わすのは容易いことだった。獣医である娘も、少しばかりは動物の気持ちがわかるようだった。それは遠いながらもドラキュラの子孫であったからなのかもしれない。

ドラキュラは幸せだった。
かつて愛した女性の姿を重ねながらも、純朴な娘の笑顔に出合い、悲しみの気持ちは、温かな流れとなって胸を巡った。
娘との会話から、自分が口にしているものの正体に気づいたが、それは取るに足らないことだった。

一方、年老いた召使いも幸せだった。
人の喜びを乗せて馬車をはしらせる仕事に、これまでにない生き甲斐を感じていた。
それに、秘密にしていた虫のことを知っても、主人の笑顔は消えない。何も不安をもつことなく、日々を溌剌と過ごしていた。


こうして、時は穏やかに流れていった。青い葉を繁らせていた公園の木々は赤く色づき、やがて、木枯らしの吹く季節となった。
ある日、いつもの風変わりな食事の際に、ドラキュラは首を傾げた。

「このノミはどのあたりの動物から採ってきたのだ」
「はて、園内から広く集めましたので、どのあたりとはわかりませぬが」
「ある動物の血が泣いている」
ドラキュラは唸るように低くいった。

その夜遅くに、ドアがノックされた。
昼間の仕事に疲れた召使いは、深く寝入っている。代わりに出たドラキュラの前に立っていたのは、娘だった。悩みごとがあるように暗い顔をしている。

「動物に何事かが?」
「ええそう。彼らと話ができるあなたに会ってもらいたいの。ちょっと来て」

娘はドラキュラを、園の医務室に連れていった。
「この子、三日前にここにやってきたのだけど。ぜんぜん食事をとっていないの」

見れば、白黒ブチのハイエナの子どもが、柵の中のベッドに横たわっていた。舌をたらした口から漏れる息はとても弱い。

ドラキュラは、心を覗こうと毛皮に手を当てたが、急に顔を背けた。
身体を焼き尽くすような太陽が、ハイエナの心の隅に見えたのだ。
「かれは、故郷で見ていた太陽の光を求めている。かれに必要なのは、眩しく燃える陽の光」
「飼育員たちは、ただの旅の疲れだといっていたけど、やはりそうなのね」
自分の考えと同じだったらしく、娘は深く頷いた。

「せめて、かれの生まれた土地で育まれた食物はないのか。それを口にしなければ、命の炎は燃え尽きてしまう」
「そんなものはここにはないわ。餌を取り寄せるには、時間がかかりすぎる」
娘は力なくうなだれた。

どうしようもない別れを待つ娘を前にして、ドラキュラは悲しかった。
また、翼をもつ自分を恨んだ。今すぐ、羽ばたいていけば、明日中には異国の土地につき、餌を手に入れることができる。しかし、空を羽ばたいている途中で、朝日が昇る。そして光に焼かれ、灰になってしまうのだ。

ドラキュラは悩んだ。
・・わしが毛皮に噛みつき、血を分け与えれば、ハイエナは永遠の命を得ることができる。だが、彼が求める陽の光とは永遠に会えなくなってしまう。では、では、どうすれば・・

時は空しく過ぎていった。娘は話をすることもなく、ハイエナの毛を撫でている。



<結の章>

・・生きるとはなんなのだ・・
最初は、娘の悲しみを前にしての悩みだった。
それが小さな命を救いたい気持ちに変わった。そして今、ドラキュラの頭の中で渦巻いていたのは、自分の命についての問いだった。

・・総てのものは、生きることの果てに死を迎える。夜空に浮かぶ星とて同じ。儚くも美しく瞬いて命あることを示している。ところが、わしには死はない。それは生きているということなのだろうか・・

・・連綿と続く命の血綱、愛した娘は残してくれていた・・
・・そこに淀みのようにある 決して解けぬ絡み。それが自分・・

「灰になる・・それはそれでよいのではないか」
天窓の暗闇が、青く滲みはじめたとき、ドラキュラは静かにつぶやいた。

・・わしは命を持ちたい。血綱のなかで流れて生きたい。たとえ灰になる結末と引き換えになっても・・

「夜が明けるまで、わしひとりに任せてはくれまいか」
ドラキュラは黙ったままの娘の肩に、そっと手を置いた。
「何か方法が?」
「ああ、そうだ。事情を知ったそなたが 救いを施すまで、きっと彼は命を長らえる」
瞳を上げた娘に、しっかりとうなずいた。

「お願いします、夜にしか会えない不思議な人」
娘は、ドラキュラの冷たい頬に、キスをして出ていった。
「遠い子孫に口づけをされるというのは、こそばゆいものだ」
ドラキュラは微笑みながら、東の窓にかかるカーテンを開けた。

小さな家が窓の端に見えた。

「光の世界に生きる喜びを知った者、もはや、おまえはわしの召使いではない。爺よ、世話になった」
感謝の思いを噛みしめるようにつぶやいたドラキュラは、窓に向かい、大きく腕を広げた。

紫がかった空の下、朱色の朝日が木々の合間、ビルの谷間から顔を出した。
放たれる光は柔らかいものだったが、ドラキュラにとっては、数知れぬ錐の先のように鋭いものだった。
黒い服に覆われた身体は、瞬く間に貫かれ、激しく燃えはじめた。

闇の世界にしまわれていた『太陽の薪』・・
見る人がいれば、そう呼んだにちがいない。

朝日は、灼熱の国を照らす光となって、ベッドに横たわる獣に降り注いだ。

「これぞ、我が生きてきた証、今を生きている証・・」
晴れやかな声が高らかに響いた。


ハイエナの子どもがむくりと起き上がった。眩しそうにしばたく黒い目のむける先には、埃のような灰が薄く散っていた。

                                                   終わり




作品一覧へ

にほんブログ村 小説ブログ 童話・児童小説へ
にほんブログ村














テーマ

関連テーマ 一覧


月別リンク

ブログ気持玉

クリックして気持ちを伝えよう!
ログインしてクリックすれば、自分のブログへのリンクが付きます。
→ログインへ

トラックバック(1件)

タイトル (本文) ブログ名/日時
おはなしスポット
ー愛を求めたドロボウと少女の物語ー 童話 『 唐草三五郎 〜ワタシの愛したドロボウさん 』 ...続きを見る
Mind Library
2010/07/04 02:04

トラックバック用URL help


自分のブログにトラックバック記事作成(会員用) help

タイトル
本 文

コメント(0件)

内 容 ニックネーム/日時

コメントする help

ニックネーム
本 文
晩年のドラキュラの物語 おはなしポケット =☆/BIGLOBEウェブリブログ
文字サイズ:       閉じる